建物内部で採取される代表的なカビ(真菌)の特徴と、それがどんな病気をもたらすか、その概略を記す。
1)アスペルギルス(こうじカビ菌)
Aspergillus sp
代表的なクロカビ(niger)をはじめ、白、黄色、緑、褐色など(約160種)数多くの仲間がいる。中でも、猛烈な発ガン毒素のアフトラトキシンを産生するアスペルギルス・フレーバス(Aspergillus flavus)は、冷凍食品から検出されたこともあり、食品工場や住まいからも検出されるやっかいなカビである。
また、アスペルギルス・フェルシコールというカビは、やはり発ガン毒素のステリグマトシスチンという物質を産生する。結核に似た症状の肺アスペルギルス症を引き起こすカビもこの仲間である。
一方で、発酵工業に欠かせないアスペルギルス・オリーゼのような有用なカビもある。
2)ペニシリウム(アオカビ菌)
Penicillium sp
かつて抗生物質として人類に貢献したペニシリンはアオカビが作る抗生物質で有名。チーズの熟成菌であるアオカビも無くてはならない有名なカビである。ペニシリウムは非常に種類が多く約290種もあり発育初期は白色で、後に青緑、灰緑、黄緑などに変化していく。有害菌は、穀類、パンをはじめ、加工食品、野菜、果物などを腐敗させる。
一昔前、黄変米の原因菌として注目されてアオカビをはじめ、肝臓障害、肝硬変、肝ガンを引き起こすカビ毒産性菌もある。食品工場、倉庫をはじめ、住まいからも数多く検出されている。ビニールクロスからの検出率も非常に高い。
3)クラドスポリウム(クロカワサビ属)
Cladosporium sp
濃オリーブ色でビロード状のカビ。後に、黒褐色へと変化する。
食品工場を黒々と汚染するカビや外壁の黒い汚れはこのクラドスポリウムが原因となっていることが多く、喘息やアレルギー性鼻炎の原因菌ともなっている。
アルミを腐食するクラドスポリウム・レジネという変わった仲間もいて航空機の燃料タンクのアルミニウム合金がこのカビの作用で、小さな点状の腐食が無数に発生し、燃料が流れ出す事故が起きている。
4)トリコデルマ(ツチアオカビ属)
Trichoderma sp
培地上では急速に菌糸が広がり、やがて緑色のカビがコロニーの集落を作る。木材や繊維に多く発生し、このセルローズを分解する。
以前静岡県のある小学校の児童が集団で気管支炎になったことがある。調べてみると、大量の木材に発生したトリコデルマ胞子が、風に乗って運ばれ児童を襲ったことが分かったという。
5)アルテルナイア(ススカビ属)
Alternaria sp
培地上でのコロニーの発育は早く、灰色のやわらかい感じの羊毛状で、後に濃灰色〜黒色へと変化していくものもある。湿性を好み、暗い地下室や乾燥不良の室内に発生する。
食品や野菜などを腐敗させるが、喘息、アレルギー性鼻炎の原因菌でもある。
いったん発生すると、TBZでもほとんど効果のない、やっかいなカビである。
6)フザリウム(赤カビ病)
Fusarium sp
麦に発生する赤カビは、猛烈なカビ毒トリコテセンを産出するので有名であるが、その毒素は骨髄など造血機能に障害をもたらし、白血球数を1/10〜1/20に減少させ、敗血症を引き起こす恐ろしいカビである。
フザリウムは羊毛状で白、黄色、褐色、ピンク、赤、赤紫などがあり、生育当初は白色で、やがて褐色やピンク色などに変化していくものが多い。農作物、穀類によく繁殖するが、建物内外からの検出率も高い。
7)オーレオバシデウム
Aureobasidium sp
生育当初は乳白色。やがて、真黒で艶のある独特な形のコロニーに変化していく。
アルコール発酵臭のある環境(醸造工場など)に発生しやすく、ある有名な醸造工場では、自社周辺だけでなく近辺の家屋や樹木までが広範囲に黒くなって問題となった事例がある。
喘息やアレルギー性鼻炎の下人にもなる。
8)ケトミウム
Chaetomium sp
発育当初はふわふわした頼りなげな感じのコロニーに、ある日突然オリーブ褐色の小さな粒が出はじめ、やがて集合体に変化する。
紙、パルプ、木材、穀類に発生し、セルローズを強力に分解するので、繊維の試験菌にもなっている。
悪性の毒素を産出するともいわれている。
9)ムコール(ケカビ)
Mucor
白い毛髪状に生育するが、やがて白色、淡黄色、淡灰色などになる。『ケカビ』の名称がぴったりのカビ。
古い建物からは、次に述べる『クモノスカビ』といっしょに容易に分類される。食品の腐敗に関与しているものが数多くある。
10)リゾプス(クモノスカビ)
Rhizopusu
毛足の長いのはケカビと同じであるが全体に灰色で汚れた感じになり、クモノスのようになる。
野菜、果実、穀物、パンなどを放置しておくと、すぐ発生するのを見てもわかる通り、空気中に広く分布し、多くの食品、加工品を変質・腐敗させるし、カビで汚れた塗膜からも容易に検出されるカビである。同じ仲間でアルコール製造に利用される重要なクモノスカビもある。
[参考文献]
・細心食品微生物制御システムデータ集/サイエンスフォーラム、1983年
・井上眞由美:建物カビ/日本建築士会連合会、1979年
・三浦 寛:建築におけるカビとその対策/施工、1980年 |