建物に発生するカビ

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建物に発生するカビ

建物には、なぜカビが発生するのか?

我が国の住まいは、15~20年の間に急速に都市化が進み、在来工法の木造住宅が減って鉄筋コンクリート造の集合住宅や、新建材の住宅が主流になっている。

ところが、日本の国は、環境条件が欧米とは異なり、高温多湿で容易にカビが成育できるのに、欧米の建物をそのまま移入し、その中で、在来の家屋と同じ習慣の延長で生活しているため、部屋の中が一気に高温多湿になってしまうのである。
しかも、アルミサッシは性能が良く、機密性が高いし、壁装材のビニールクロスは、ほとんど通気性が無い。おまけに換気が不充分では湿気の逃げ場が無い。コンクリートの建物の中はコウジを培養するムロのようになってしまい湿害とカビに悩まされることになる。

もともと建築材料はカビ抵抗性が無い。つまり、ビニールクロスも、塗料も、接着剤もカビの栄養になってしまうので、湿度や温度が上昇すると、たちまちカビの巣になってしまう。一昔前には梅雨期がカビの季節といわれたが、今日では結露が発生する冬の方がはるかにカビの被害が多くなっている。
とは言うものの、細心の配慮から設計された集合住宅が、都市のシンボルとして、新しい地域社会に果たす役割と使命は、極めて大きいものがある。これらのデメリットを克服し、湿害の無い、カビの発育しない住宅づくりに努力してこそ、21世紀における質の高い100年住宅といえるのではなかろうか。

カビ発生の条件

カビが発生する条件には、次の四つの要素がある。
1)温度 2)湿度(水分) 
3)酸素 4)栄養素

この四要素の内、一番問題なのは温度と水分であるが、カビは一般に温度が低いところや乾燥しているところには発生しにくい。やっかいなのは、我々が生活する快適な条件がカビにとっても発育に好適であるため、簡単に退治できないことである。

カビの発生には必ず水分が関与している。特に建物に発生するカビ汚染の実態を調査すると、湿気(水分)対策が不充分なほど被害も大きくなっている。
建物の防カビ対策は、ある意味ではどのようにして室内の水分をコントロールするかにかかっているともいえるのである。
建物に発生する水分には、1.漏水 2.結露があるが、漏水はその原因が単純で解決しやすいので、結露対策を考えることが、防カビ対策の基本的な条件となる。
しかし、結露対策といっても、その原因はかなり複雑で、設計、施工における配慮と居住者の住まい方に大きく左右される。施工条件をとっても、含水率によって熱伝道率が異なり、工期的にも充分な乾燥期間がとれない場合は、放湿による結露で、後で問題の起きることが多い。一方、居住者の住まい方を見ても、よく換気する家とそうで無い家とでは、結露やカビ汚染の程度に大きな差が生じてくるのも事実である。

設計、施工、居住者がそれぞれの立場で住み良い住まいへの努力を積み重ねることがカビの発生を防ぎ、住まいを長持ちさせる大切な条件である。

カビの発生しやすい地域、建物、部位など

  1. 立地、環境条件
    1. 海岸沿い
    2. 湖沼
    3. 山間地、高地
    4. 地下街など
    5. 建物密集地域
    6. 日が照らない、通気の悪い地域
  2. 建物
    1. 上記地域のマンション、リゾートホテル、寮など
    2. 温泉浴場、温水プール
    3. 食品工場、醸造工場、化粧品工場
    4. 原料貯蔵室、倉庫
    5. 病院、入院棟、身障者施設
  3. 住居の部位
    1. 水蒸気の発生する部屋、水を使う部屋
      浴場、脱衣所、便所、洗面所、湯沸室、台所、調理場
    2. 空気の流れの悪い場所
      押入、納戸、下駄箱、たんす裏面、テレビ、ステレオ裏、カーテン裏など
    3. 裏面が冷えて結露しやすい部屋
      北側室内の壁、天井、玄関の壁面など
    4. 開口部のとりにくい部屋
      地下室など
    5. 換気扇周辺、エアコン吹出口
    6. 湿気を含みやすいところ
      畳、じゅうたん、乾燥不十分の壁面(特に新築時)、床下(床裏など)

壁面の入隅部というのは他の一般壁面より温度が低くなるが、この部分にタンスや家具などを置く場合が多いので、結露してカビが発生しやすい。入隅部は下の床面に近い方がカビで汚染しやすいが、下部の方が温度が低くなるためである。
そして我々は、日常生活の中で発生する水蒸気の量も気にしなくてはなりません。水蒸気の量と結露の関係は非常に密接で、いまだにマンションの中で、石油ストーブを使い、上にヤカンを置いて湯気を出している家を見かけるが、これではカビを培養しているようなものです。

カビの発育する建築材料

最近、日曜大工店やスーパーマーケットの日曜大工コーナーには、いろいろなメーカーの塗料が、ところ狭しと並んでいる。日本もようやくアメリカ並に自分で塗って補修する習慣が広まりつつあることを感じる。
ところが、カビによく効く塗料は無いようである。カビで汚れた浴室の壁を塗りなおしたところで、すぐカビが生えてきたということで、ラジオ相談室に質問を寄せていた人に対し、DIY専門の先生の解答は「漂白剤かアルコールで下地を良く拭いて市販の防カビ塗料を塗りなさい。もしも、半年ぐらい経ってカビが再生したときは、また同じ工程を繰り返しなさい」というものであった。
確かに、この解答が市販の防カビ塗料の限界であり、ごく標準的な見識でもある。ホームコンサルタントもこのような考え方をしている。
日常生活の中に深く入り込んできた『塗料』という素材でさえ、この程度であるから、他の建築材料に、防カビ性能を求めるのは困難というものだろう。

次に、現在建築に使用される材料でカビの発生する可能性のあるものを列記する。

  1. 塗料
    塗料の種類によってカビの発生しやすいものと、発生しにくいものがあるが、厳しい条件ではすべて発生すると考えてよい。
    水性エマルジョン塗料は特にカビが発生しやすいが、びっしりとカビが繁殖すると、100円硬貨1枚あたりの面積でカビの胞子は30億以上に達する。またこれを放置すると塗膜は劣化して、塗料本来の機能を果たせなくなる。
  2. 接着剤
    接着剤の種類や用途は、近年次々と新しい素材が開発され複雑多岐にわたっているが、使用する材料(商品名)使用条件によっては、当然防カビ性能の必要なものが少なくない。
  3. ビニールクロス
    安全で効果の高い薬剤を製造段階で配合する方法と、施工時に防カビ仕様で仕上げる方法がある
  4. 繊維材料
    繊維材料の中で建築に広く用いられる材料は、木材、畳、紙、布地などの繊維製品である。これらはすべて微生物の影響を受けるが、建築用材(構造材、内装材、外装材など)や、畳、紙は薬剤の利用が効果的である。
    木綿、羊毛などの天然繊維、ナイロン、テトロン、ポリエステルなどの合成繊維もカビや細菌と密接な関係がある。
    1. 内装材
    2. ジュータン、足拭きマット
    3. カーテン
    4. テント
  5. コンクリートとモルタル
    コンクリート、モルタル、石膏ボードのような無機質の材料も、建築後2~3年経ってアルカリ性が無くなってくると、カビが発育する。
    特に浴室、流しの下部、倉庫、調理場、食品工場の洗い場や冷蔵庫、建築外装で常に濡れているところはカビ汚染が著しい。
    これらコンクリートの表面には、カビの栄養が付着すると、カビの繁殖がさらに激しくなる。
  6. じゅらく材
  7. プラスチック材料
  8. その他、シリコン樹脂、アクリル樹脂、フタル酸樹脂など
  9. アルミニウム材料
  10. その他の金属

建物に発生するカビ

建物内部で採取される代表的なカビ(真菌)の特徴と、それがどんな病気をもたらすか、その概略を記す。

  1. アスペルギルス(こうじカビ菌)
    Aspergillus sp
    代表的なクロカビ(niger)をはじめ、白、黄色、緑、褐色など(約160種)数多くの仲間がいる。中でも、猛烈な発ガン毒素のアフトラトキシンを産生するアスペルギルス・フレーバス(Aspergillus flavus)は、冷凍食品から検出されたこともあり、食品工場や住まいからも検出されるやっかいなカビである。
    また、アスペルギルス・フェルシコールというカビは、やはり発ガン毒素のステリグマトシスチンという物質を産生する。結核に似た症状の肺アスペルギルス症を引き起こすカビもこの仲間である。
    一方で、発酵工業に欠かせないアスペルギルス・オリーゼのような有用なカビもある。
  2. ペニシリウム(アオカビ菌)
    Penicillium sp
    かつて抗生物質として人類に貢献したペニシリンはアオカビが作る抗生物質で有名。チーズの熟成菌であるアオカビも無くてはならない有名なカビである。ペニシリウムは非常に種類が多く約290種もあり発育初期は白色で、後に青緑、灰緑、黄緑などに変化していく。有害菌は、穀類、パンをはじめ、加工食品、野菜、果物などを腐敗させる。
    一昔前、黄変米の原因菌として注目されてアオカビをはじめ、肝臓障害、肝硬変、肝ガンを引き起こすカビ毒産性菌もある。食品工場、倉庫をはじめ、住まいからも数多く検出されている。ビニールクロスからの検出率も非常に高い。
  3. クラドスポリウム(クロカワサビ属)
    Cladosporium sp
    濃オリーブ色でビロード状のカビ。後に、黒褐色へと変化する。
    食品工場を黒々と汚染するカビや外壁の黒い汚れはこのクラドスポリウムが原因となっていることが多く、喘息やアレルギー性鼻炎の原因菌ともなっている。
    アルミを腐食するクラドスポリウム・レジネという変わった仲間もいて航空機の燃料タンクのアルミニウム合金がこのカビの作用で、小さな点状の腐食が無数に発生し、燃料が流れ出す事故が起きている。
  4. トリコデルマ(ツチアオカビ属)
    Trichoderma sp
    培地上では急速に菌糸が広がり、やがて緑色のカビがコロニーの集落を作る。木材や繊維に多く発生し、このセルローズを分解する。
    以前静岡県のある小学校の児童が集団で気管支炎になったことがある。調べてみると、大量の木材に発生したトリコデルマ胞子が、風に乗って運ばれ児童を襲ったことが分かったという。
  5. アルテルナイア(ススカビ属)
    Alternaria sp
    培地上でのコロニーの発育は早く、灰色のやわらかい感じの羊毛状で、後に濃灰色~黒色へと変化していくものもある。湿性を好み、暗い地下室や乾燥不良の室内に発生する。
    食品や野菜などを腐敗させるが、喘息、アレルギー性鼻炎の原因菌でもある。
    一旦発生すると、TBZでもほとんど効果の無い、やっかいなカビである。
  6. フザリウム(赤カビ病)
    Fusarium sp
    麦に発生する赤カビは、猛烈なカビ毒トリコテセンを産出するので有名であるが、その毒素は骨髄など造血機能に障害をもたらし、白血球数を1/10~1/20に減少させ、敗血症を引き起こす恐ろしいカビである。
    フザリウムは羊毛状で白、黄色、褐色、ピンク、赤、赤紫などがあり、生育当初は白色で、やがて褐色やピンク色などに変化していくものが多い。農作物、穀類によく繁殖するが、建物内外からの検出率も高い。
  7. オーレオバシデウム
    Aureobasidium sp
    生育当初は乳白色。やがて、真黒で艶のある独特な形のコロニーに変化していく。
    アルコール発酵臭のある環境(醸造工場など)に発生しやすく、ある有名な醸造工場では、自社周辺だけでなく近辺の家屋や樹木までが広範囲に黒くなって問題となった事例がある。
    喘息やアレルギー性鼻炎の下人にもなる。
  8. ケトミウム
    Chaetomium sp
    発育当初はふわふわした頼りなげな感じのコロニーに、ある日突然オリーブ褐色の小さな粒が出はじめ、やがて集合体に変化する。
    紙、パルプ、木材、穀類に発生し、セルローズを強力に分解するので、繊維の試験菌にもなっている。
    悪性の毒素を産出するともいわれている。
  9. ムコール(ケカビ)
    Mucor
    白い毛髪状に生育するが、やがて白色、淡黄色、淡灰色などになる。『ケカビ』の名称がぴったりのカビ。
    古い建物からは、次に述べる『クモノスカビ』といっしょに容易に分類される。食品の腐敗に関与しているものが数多くある。
  10. リゾプス(クモノスカビ)
    Rhizopusu
    毛足の長いのはケカビと同じであるが全体に灰色で汚れた感じになり、クモノスのようになる。
    野菜、果実、穀物、パンなどを放置しておくと、すぐ発生するのを見てもわかる通り、空気中に広く分布し、多くの食品、加工品を変質・腐敗させるし、カビで汚れた塗膜からも容易に検出されるカビである。同じ仲間でアルコール製造に利用される重要なクモノスカビもある。

[参考文献]
・細心食品微生物制御システムデータ集/サイエンスフォーラム、1983年
・井上眞由美:建物カビ/日本建築士会連合会、1979年
・三浦 寛:建築におけるカビとその対策/施工、1980年

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